
【大家さん向け】賃貸借契約の更新にまつわる基礎知識!必要手続きや注意点も解説
賃貸借契約とは、賃貸物件に入居する際に貸主と借主との間で交わ […]

賃貸経営に携わると一度は耳にしたことのある「定期借家契約」。契約で定めた期間の中で賃貸借契約を行う「定期借家契約」は、貸主にメリットがある制度ということはご存知でしょうか。
この契約の利点を活かして賃貸経営をしたい大家さん(貸主)に向けて、今回は定期借家契約についての解説やメリット・デメリットのほか、起こりうるトラブルや対処法について弁護士がわかりやすく解説します。
※記事の内容は、2025年9月時点の法令・情報に基づいています
| 監修=芝大門法律事務所 高橋 真司弁護士
慶応義塾大学卒業後、99年に弁護士登録・芝大門法律事務所へ入所。不動産紛争、近隣問題、債権回収、相続など多くの大家さんが悩むテーマを中心に取り扱う「不動産問題のプロ」。著書に「賃貸住宅の法律Q&A」(大成出版社・共著)ほか。 |
目次
まずは、そもそも定期借家契約とは何かを説明していきます。
定期借家契約(定期建物賃貸借契約)とは、2000年から導入された賃貸借契約に期間の定めがある借家契約のことです。「定借」や「定期借家」とも呼ばれます。契約で定めた期間が満了になったら契約が終了となり、更新はできません。ただし、貸主と借主が合意すれば再契約することが可能です。
・建て替えや大規模修繕の予定に合わせて貸し出す
・再開発エリアで、開発が始まるまで部屋を貸し出す
・転勤などで不在にする間に貸し出す(リロケーション)
・自分が住むまで、空き家になっている実家を貸し出す
・別荘やセカンドハウスをオフシーズンだけ貸し出す
ほかにも、転勤や学生の就職活動などに合わせてマンスリーやウィークリーマンションとして貸し出すといったケースもあります。
また、「期間を限定して貸したい」というニーズ以外の活用事例もあります。定期借家契約の場合、契約期間の満了によって契約を終了できるため、ペット共生住宅やシェアハウスとして貸し出す際に、「入居者が規約を守るか」「近隣トラブルを起こさないか」などを確認するために利用し、問題がなければ再契約するといったケースもあります。
高橋弁護士:
不動産会社に仲介を依頼する際は、借主に「必ずしも再契約できるわけではない」ということをしっかり説明してもらいましょう。
期間を定める場合、基本的に1年以上で設定する必要がある普通借家契約。入居者が継続して居住を望む場合は、貸主からの解約や更新終了は正当事由(正当な理由)があるとき以外認められていません。なので、契約期間は借主の意向に大きく左右されます。
一方、定期借家契約は契約期間の満了によって契約を終了することができるため、契約期間が明確で収益の予測が立てやすくなります。
| 契約の種類 | 定期借家契約 | 普通借家契約 |
| 契約方法 | 公正証書などの書面による契約 ※電磁的記録による契約も書面の契約と同様 ※貸主はあらかじめ契約書とは別の書面を交付して「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を説明する必要がある |
書面または口頭 |
| 用途 | 住居用・事業用どちらも可能 | |
| 契約期間 | 制限なし ※1年未満の契約も可能 |
制限なし ※1年未満の場合は「期間の定めがない建物賃貸借契約」とみなされる |
| 借主からの中途解約 | ①床面積200㎡未満の居住用の建物については、借主が、転勤・療養・親族の介護等のやむを得ない事情により、建物を生活の本拠として使用することが困難となった場合は、借主の方から中途解約の申入れをすることが可能(申入れの日後1か月の経過により賃貸借契約が終了)
②①以外の場合、中途解約に関する特約があればその定めに従う |
中途解約に関する特約があればその定めに従う |
| 期間満了前の通知 | (契約期間が1年以上の場合)借主から期間満了の1年前~6ヶ月前の間に、期間の満了により賃貸借契約が終了する旨を通知する必要がある | 借主が期間満了の1年前~6ヶ月前までに更新しない旨の通知をしない場合、 従前と同一の条件で期間の定めのないものとして契約が自動更新される |
| 更新の有無 | 期間満了後の更新はなし ※ただし、再契約は可能 |
正当事由がない限り更新 |
既存の普通借家契約を解約せずに定期契約に「切り替える」という合意をすることは無効です。なぜなら、借主が普通借家契約により借家権(※1)を有しているからです。借家権は、貸主が正当事由を持たない限り原則として終了しません。
※1 借家権:賃貸借契約によって得られる借主の権利。経済的価値のある財産権の一つとして考えられる
高橋弁護士:
入居者は「借地借家法」によって強く守られているため、普通借家権がある状態で定期借家に切り替えることはできないのです。
しかし、普通借家契約を貸主と借主の間で合意して解消すれば、普通借家権も終了し、新たに定期借家契約を結ぶことができます。
ただし、事業用ではなく居住用の物件で、定期借家権が施行された2000年(平成12 年)3月1日より前の契約の場合、借主と貸主が合意して既存の契約を解消しても、新たに定期借家契約を結ぶことができません。

大家さんにとって定期借家はこのようなメリットがあります。
1ヶ月や6ヶ月といった短期間の賃貸契約を結べる定期借家契約。一定の期間だけを借家にしたい場合や、売却までの間に貸し出したいと考えている貸主にとって定期借家契約は有効な制度です。将来的に売却する予定がある物件や自分や家族が利用する予定がある物件でも安心して貸し出すことができます。
建て替えや自家利用など何らかの理由で退去をお願いする場合、普通借家契約だと通常、立ち退き料の支払いが必要となります。定期借家契約では、契約期間が満了すれば、立ち退き料の支払いは不要です。
【関連記事】賃貸物件の立ち退きの流れ、立ち退き料の考え方を弁護士が解説
一定期間空き家になる住宅にも、定期借家契約は役立ちます。例えば、1年8ヶ月だけ別の場所に住んだ後マイホームに戻ることを計画している場合、その間だけ定期借家契約を結んでおけば、空き家を有効的に使うことができます。
さまざまなメリットのある定期借家契約ですが、以下のようなデメリットや注意点もあります。
定期借家契約は期間満了後の更新がない契約となるため、普通借家契約の賃貸物件と比べて、エリアや物件の状態などによっては借り手が付きにくいケースがあります。条件にもよりますが、定期借家の家賃相場は普通借家の50〜80%程度となることも。
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口頭契約ができる普通借家契約とは違い、定期借家契約では書面による契約が必須となります。借地借家法には、「公正証書による等書面」という記載があるものの、あくまでも例示なので、通常の契約書で手続きをすることが可能です。
国土交通省のHPでは、定期借家契約の契約に活用できる契約書のひな形を公開しています。
【参考サイト】住宅:『定期賃貸住宅標準契約書』について – 国土交通省
また、あらかじめ契約書とは別の書面を交付して「更新がなく、期間の満了により終了する旨」を借主に説明する必要があります。これらの要件を満たさないと契約が認められないことから、煩雑に感じる方もいらっしゃいます。
高橋弁護士:
契約に関する説明書面や契約書は、契約期間中はもちろん、契約後も最低5年間は大切に保管しましょう。これは、万が一トラブルが発生した場合に証拠となるためです。

普通借家契約とは事情が異なる定期借家契約。契約を結ぶ時の注意点やよくあるトラブルの予防策・解決法をまとめました。
定期借家契約を結ぶには、かならず書面での契約が求められます。万が一契約書がなく口頭でのやり取りとなった場合は、普通借家契約扱いになってしまいます。また、あらかじめ契約書とは別の書類を用意し、「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を説明し、交付する必要があります。
トラブル予防策:契約の際に以下の要件を満たす
1.公正証書などの書面で契約する
※電磁的記録による契約も書面の契約と同様
2.一定の契約期間を定める
※期間に制限はないものの「家主が不在の間」など不確定な条件を定めることは不可
3.あらかじめ契約書とは別の書面を交付して「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を説明する
定期借家契約の契約期間が1年を越す場合、期間が満了する1年~6ヶ月前の間に終了を通知する必要があります。再契約の場合にも、一旦契約を終了してから新たに契約を結ぶ必要があります。
トラブル予防法:カレンダーのリマインド機能などを使い、終了通知を忘れないようにする
終了通知とは「定期借家契約が終了する」という旨が記載された書面です。基本的に以下が記載されます。
・入居者の名前、住所
・貸主の名前、住所
・賃貸物件の名称
・契約期間
国土交通省のHPでは、終了通知のひな形を公開しています。
【参考サイト】住宅:過去の契約書式例- 国土交通省
万が一終了通知を忘れてしまった場合は、定期借家契約が終了していないことになるため、契約期間が延長となります。改めて通知をすればその6ヶ月後には契約を終了させることができます。
終了通知をしないと契約終了と同時に普通借家契約になってしまうことはないので、安心してください。しかし、連帯保証人の契約は定期借家契約の終了とともに打ち切りとなるので、再契約になった場合は連帯保証人との契約をし直す必要があります。
契約期間が満了したのに、借主が居座り続けるというケースもあります。
トラブル解決策:まずは話し合いで交渉し、それでも解決しない場合は建物明け渡し請求訴訟を起こす
前述の通り、定期借家契約が成立していて、1年以上の契約期間の場合終了通知もしていれば、立ち退きを要求できます。法的な手続きで退去を求めることも可能ですが、費用や時間がかかるため、まずは本人と話し合いましょう。
話し合いで交渉がまとまらない場合は、裁判所に「建物明け渡し請求訴訟」を提起することになります。定期借家契約に更新はないため、裁判所は普通借家契約と異なり大家さんの言い分を認めてくれます。裁判で入居者に立ち退きが命じられたにもかかわらず入居者が退去しない場合は、強制執行の手続きを取ることになります。
建物明け渡し請求訴訟と強制執行については、こちらの記事の「2.裁判所で「建物明け渡し請求訴訟」の提起」部分もご参照ください
【関連記事】家賃滞納に悩む大家さん必見。強制退去の条件や流れ、費用を弁護士が解説
高橋弁護士:
上記のようなトラブルが発生した場合、不動産会社に管理を任せている場合は、まず不動産会社に相談しましょう。自主管理をしている場合や不動産会社が問題を解決できない場合は、不動産問題に強い弁護士にご相談ください。
定期借家契約中に入居者から退去の申し出があった場合、以下の条件が揃えば解約を認める必要があります。
・一部分でも居住用として利用している
・床面積が200㎡未満である
・転勤、療養、親族の介護などといったやむを得ない事情がある
上記が揃っている場合は、中途解約の申し入れ1ヶ月後に退去してもらいます。ただし、契約時に中途解約についての特約を設けていた場合、上記の場合は法律で無効になるので注意しましょう。
「短期間の契約ができる」「立ち退き料の負担が不要」「空き家を有効活用できる」がメリットの定期借家。一定期間だけ空いてしまう賃貸物件の有効活用にお困りの貸主には有効的に使える制度です。
デメリットを理解しつつ、お持ちの賃貸物件はどちらの契約に合うのかよく考え活用しましょう。