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家賃滞納に悩む大家さん必見。強制退去の条件や流れ、費用を弁護士が解説

賃貸経営の基礎
公開日:
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#家賃滞納を解消したい
家賃滞納に悩む大家さん必見。強制退去の条件や流れ、費用を弁護士が解説

賃貸経営をしていると「入居者が家賃を長期滞納する」といったトラブルに遭遇する場合があります。家賃滞納されてしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか。この記事では、法的な手段を講じる前にできる交渉、強制退去につながる2つの条件、強制退去にいたるまでの流れや費用について弁護士が解説します。

※記事の内容は、2024年7月時点の法令・情報に基づいています

監修=芝大門法律事務所 高橋 真司弁護士

慶応義塾大学卒業後、99年に弁護士登録・芝大門法律事務所へ入所。不動産紛争、近隣問題、債権回収、相続など多くの大家さんが悩むテーマを中心に取り扱う「不動産問題のプロ」。著書に「賃貸住宅の法律Q&A」(大成出版社・共著)ほか。

URL:https://www.shibadaimon-law.com/staff/takahasi

法的な手段を講じる前にできる交渉

入居者が家賃を滞納しても、すぐには契約解除することができません。契約解除による強制退去は法的な最終手段なので手間や時間がかかります。まずは、管理会社に連絡しましょう。自主管理している大家さんは、家賃を滞納している入居者と個人間で交渉を試みるのも一つです。

督促のポイント
・電話や訪問などによる督促は、深夜や早朝を避けて行う(例:夜21時~朝8時までは連絡しない)
・家賃を滞納している入居者への対応や督促の履歴、記録は書面で残しておく

1.電話やメールでの請求

貸主か管理会社から、家賃滞納者に電話やメールで連絡を試みてください。電話をかける場合、集中して1日に何度もかけるより、断続的に連絡するほうが効果的であることが多いです。ただし、勤務先や学校、連帯保証人以外の親族に連絡してはいけません。家賃滞納者に精神的苦痛を与えたとして、逆に損害賠償を請求されるおそれがあります。

2.督促状や請求書の送付

連絡先が不明の場合、2~3回連絡してもつながらない、折り返しがない場合は、督促状や請求書を送りましょう。

3.内容証明の送付

何度か督促しても支払いがない場合には、内容証明を利用して督促状を送りましょう。内容証明は「誰が誰にいつ送ったか」、「どんな内容か」を郵便局が公的に証明してくれる書類で、裁判でも必要な証拠となります。

4.家への訪問

可能であれば、直接家に訪問してみましょう。訪問する時間や頻度は、電話のときと同じく早朝や深夜を避け、断続的に訪問してください。ポストに郵便物がたまっていないか、表札の名前が入居者と異なっていないか(又貸しされていないか)などを確認することで、家や入居者の状況を把握できる可能性があります。

【関連記事】賃貸物件の又貸し・無断転貸をチェックする方法。発覚時の対処法や防ぎ方

5.連帯保証人への連絡

家賃滞納から1か月ほど経っても何の対応もない場合には、連帯保証人に連絡してみましょう。すぐに督促状を出すのではなく、電話連絡を入れてから詳細を記載した督促状を送付してください。

家賃を滞納している入居者が行方不明の場合の対処法

入居者が行方不明の場合、家賃滞納者と同じような流れで電話連絡や訪問を行います。また、住民票を取って現住所を調べるという方法もあります。
入居者の行方がわからない場合、所在不明になる直前の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所で、公示送達の申し立てによる訴訟を検討しましょう。その後の流れは、ご紹介した強制退去の方法と同じ流れで進めます。

強制退去につながる2つの条件

家賃を滞納していることを理由として、家賃滞納者を強制退去させるためには2つの条件が必要です。

1.家賃を3か月以上滞納している

家賃滞納が発生しても、すぐには退去させることはできません。法的に具体的な期間は定められていませんが、最低3か月以上に渡り家賃を滞納していることが目安となります。

2.貸主と借主の信頼関係が壊れている

家賃を支払わずに部屋を借りているということは、部屋を貸すときに交わした「賃貸借契約」の不履行となり、信頼関係が失われていると判断できるため契約解除につながります。

強制退去が認められないケース

強制退去を求める2つの条件がそろっていても、借主が失業や健康上の理由で一時的に支払いが困難な場合であって、一定期間経過後支払うことができるような場合、貸主と借主の信頼関係が崩れたとはいえず、強制退去を求めることはできない可能性があります。
また、連帯保証人が代わりに家賃を支払った場合は、家賃滞納を理由とした契約解除は難しくなります。
さらに、入居者からの設備不良の申し出に対応していなかった、建物の修繕を怠ったなど大家さん側に不備がある場合、強制退去が認められにくくなる可能性があります。

下記の行為は貸主側の権利の濫用とされ、場合によっては罪に問われる可能性があるため控えましょう。

・勤務先や学校、連帯保証人以外への連絡
・早朝や深夜(例:20時~7時)の電話や訪問
・同日中の複数回の電話や訪問
・共用部分や玄関で張り紙や立て看板を使った督促
・無断で鍵を交換
・無断で入室
・無断で家財などを撤去
・脅迫や居座りを行う

費用やコストを考えると、法的な手段に頼らず、通常の督促や協議によって解決できることが理想です。借主や連帯保証人を含めて協議できる場合は、「滞納家賃の分割払い」など条件をつけて賃料の支払いや建物の明け渡しをしてもらうほうが合理的な場合が多いと考えられます。

借主から反応がない場合は、協議が難しいと考え法的手段に移りましょう。

強制退去につながる法的な手段

1.内容証明で「催告兼契約解除通知書」を送付
2.裁判所で「建物明け渡し請求」を申し立て
3.裁判所で「強制執行」を申し立て
4.居住状態の確認、明け渡しの催告手続き
5.強制執行(強制退去)

交渉しても一向に支払われない場合、強制退去のための法的手続きを踏むことになります。裁判の手順は以下の通りに進めていきます。

1.内容証明で「催告兼契約解除通知書」を送付

借主と連帯保証人に、催告書兼契約解除通知書を内容証明で送付します。
家賃滞納が3か月を超えてから相当の期間(例:1週間~10日程度)内に支払うことを催告し、期間内に支払がない場合は、債務不履行として賃貸借契約を解除できます。

2.裁判所で「建物明け渡し請求訴訟」の提起

契約解除後も立ち退かない場合は、裁判所に明け渡し請求訴訟を提起します。明け渡しに請求にかかる費用は切手代約6,000円分と、収入印紙代です。収入印紙代は、不動産の時価総額により変わります。

請求する際に費用以外にも以下の書類が必要となります。

・不動産登記記録
・固定資産評価額証明書
・代表者事項証明書(借主または大家さんが法人の場合)
・証拠書類(建物賃貸借契約書、内容証明郵便、配達証明書)
・明け渡し請求の訴状

被告(借主や保証人)が裁判所に出頭してこない場合は、訴えた内容がそのまま判決されます。被告が出頭してきた場合は、話し合いによる和解にいたる場合があり、判決と同様の強制力を持つ和解調書が作成されます。その後、被告側が和解内容にそむいた場合は、改めて裁判にはならず、そのまま強制執行となります。

3.裁判所で「強制執行」を申し立て

明け渡し請求で出た判決だけでは執行力がないので、執行文付与の申し立てを行います。被告側に判決文が届いていることを証明する必要があるので、送達証明書を申請しましょう。必要書類は以下の通りです。

・申立書
・送達証明書
・執行文の付与された判決の正本(裁判上の和解の場合は、和解調書)
・大家さんか家賃滞納者のどちらか一方が法人の場合は資格証明書
・該当物件の住所が示された地図

予納金の費用は、1物件につき65,000円。相手や物件が増えるごとに40,000円が追加で必要になります。
※2024年7月時点の東京地裁の場合の費用です。裁判所によって異なる可能性があるため、管轄の裁判所に問い合わせるかホームページ等でご確認ください

4.居住状態の確認、明け渡しの催告手続き

裁判所の強制執行担当の職員(以下、執行官)と一緒に催告の日時を決めて、現地を訪れます。
合鍵で室内に入れないことがあるため、鍵屋さんに同行してもらうケースが多いです。
まず、表札やポストにある郵便物の宛名などを確認し、強制執行申し立ての対象者(借主)が部屋に住んでいるかを確認します。
次に、入居者がいるかどうか確認し、執行官が部屋に入ります(不在の場合も解錠して入室します)。
物件の占有状況を確認した後、引き渡し期限(催告から1か月以内)や強制執行の断行日を記載した公示書を部屋の中に張り付けます。

5.強制執行(強制退去)

強制退去とは、法律上の権利を強制的に実行する強制執行手続きの一つです。強制執行の断行日に、執行官が直接部屋に赴いて家賃滞納者を退去させることになります。
入居者やその家族が動産を引き取らない場合、家具や家電などの動産や荷物を運び出し、部屋を空っぽにします。運び出した荷物は倉庫に保管し、大家さんが荷物の処分を検討します。
家賃滞納している入居者を強制退去させられるのは、最短で起訴から3か月半~4か月後です。

強制退去以外の法的な手段

支払督促

裁判所に申し立てを行い、裁判所から家賃を滞納している入居者に家賃支払いの督促通知を送付します。反応がなければ、最終的に経済的な強制執行をするための書類となる、仮執行宣言付き支払督促を取得できます。
ただし、相手から異議を出された場合は普通の裁判に移行することになります。

【参考サイト】支払督促|裁判所

少額訴訟

60万円以下の金銭の支払いを請求するときの訴訟で、通常1回の裁判で終了するため、弁護士に依頼せず個人で行うことができます。ただし、相手から「通常の手続きで審理してください」と言われた場合は、通常の裁判に移行することになります。

【参考サイト】少額訴訟|裁判所

上記はあくまでも滞納した家賃を請求する手続きです。法的な手続きで建物の明け渡しを求めるには、訴訟を起こすしかありません。

強制退去にかかる費用は入居者に請求可能

家賃滞納 強制退去2

民事執行法第42条には、「強制執行の費用で必要なものは債務者の負担とする」と定められています。強制退去にかかった回収作業費や裁判費用は、後に債務者である借主に請求することができます。ただし、弁護士費用は請求できないので注意が必要です。
また、相手が家賃を滞納するほど困窮している場合、追い詰めてしまい自己破産を選択される場合もあります。自己破産後の取り立ては不可能になるため、かかった費用を回収することはできません。

弁護士に依頼する費用の目安は、以下の通りです。

初回の相談料:30分5,000円程度
着手金:10~40万円程度(賃料が20万以下の場合)
報酬金:明渡しについて10~40万円程度(賃料が20万以下の場合)
滞納金について 回収できた金額の約10~15%程度
※強制執行が必要になる場合、上記のほか、追加で10〜20万円程度の強制執行の明け渡し手数料がかかる場合もあります

裁判費用では、予納金65,000円と収入印紙代、予納郵便切手約6,000円が必要です。

強制撤去には、以下のような費用がかかります。

解錠技術者費用:1回約2万円~
荷物の搬出運搬費用:1Rの場合で約15万円~(一般家庭の場合は約30~50万円)
廃棄処分費用:約2~4万円
保管料:数万円~
荷物量によって上記費用は変動します。催告日に業者が荷物量を確認して見積もりを行います。保管料は執行官の判断による保管の要否、期間で異なります。

家賃滞納でお困りの場合は、専門家に相談を

督促や交渉の際、大家さんの側に問題があると、強制退去が認められなくなってしまう可能性があります。
家賃滞納でお困りの場合は、まず管理会社へ相談しましょう。また、自主管理をされている方は不動産会社や弁護士に相談しましょう。