
ペットを無断飼育している入居者への対処法!強制退去させられる条件や手順も解説
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立ち退きとは、物件の老朽化や再開発などを理由に、オーナー(賃貸人)が入居者(賃借人)に退去を求めること。しかし、立ち退き料を提示しても、すんなり応じてもらえるとは限らず、トラブルになってしまう場合もあります。
この記事では、居住用の賃貸物件を所有するオーナーの方向けに、立ち退きトラブルを未然に防ぐためのポイントや、実際に起こりやすいトラブルの事例とその対処法をご紹介しています。
立ち退きに関する基礎的な内容は、以下の記事で解説しています。
【関連記事】賃貸物件の立ち退きの流れ、立ち退き料の考え方を弁護士が解説
不動産分野に強い弁護士の経験とアドバイスをもとに、スムーズな交渉を進めるためのヒントをまとめました。
※記事の内容は、2025年4月時点の法令・情報に基づいています
監修=芝大門法律事務所 高橋 真司弁護士
慶応義塾大学卒業後、99年に弁護士登録・芝大門法律事務所へ入所。不動産紛争、近隣問題、債権回収、相続など多くの大家さんが悩むテーマを中心に取り扱う「不動産問題のプロ」。著書に「賃貸住宅の法律Q&A」(大成出版社・共著)ほか。 |
建物が老朽化してきた場合や、周辺で都市開発が進んでいる場合、建て替えや解体を検討することがあります。あるいは、オーナー自身がその建物を住居や事業で利用したい(自己使用)と考えるケースもあるでしょう。こうした事情から、入居者に立ち退きをお願いしなければならないケースは珍しくありません。
ただし、注意したいのは、居住用の賃貸物件では、入居者は「借地借家法」によって守られているということです。普通借家契約の場合、契約期間が終了しても、入居者が引き続き住みたいと希望すれば、原則として契約は自動更新され、簡単には立ち退いてもらうことができません。
※1992年(平成4年)7月以前に締結された契約については、旧「借家法」が適用され、契約の更新や立ち退きに関するルールが現行法と異なる場合があります。具体的な判断が必要なケースもあるため、該当する場合は専門家への相談がおすすめです
そのため、オーナーが契約の更新を拒否したり、解約を申し入れたりするためには、「正当事由(賃借人に退去を求める正当な理由)」が必要になります。正当事由には「建物の構造に関する老朽化が著しく倒壊のリスクがある」といったものが挙げられますが、利用にあたっての危険性や建て替えの緊急性がなければ正当事由として認められないこともあります。
実際には、立ち退きに関する交渉を進める際、建物の老朽化などの理由に加えて、立ち退き料などの経済的な補償をあわせて提示することで、話が進みやすくなるケースが多く見られます。こうした対応を通じて、正当な理由をより強く示すことができるため、入居者の理解や納得を得やすくなります。
高橋弁護士:
最近は、インターネットを通じて入居者もさまざまな法律に関する知識を得られるようになりました。たとえば、退去時の原状回復の義務や退去費用などのルールについてはある程度の共通認識が広がりつつあります。ただし、立ち退きの問題はもっと複雑で、ケースバイケースの対応が求められます。事前にしっかりと準備をしておくことが、余計なトラブルを避けるためにも非常に重要です。
基本的な立ち退きの進め方や、立ち退き料について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
【関連記事】賃貸物件の立ち退きの流れ、立ち退き料の考え方を弁護士が解説
入居者との立ち退き交渉は、オーナーにとって精神的にも負担の大きい場面です。トラブルを未然に防ぎ、スムーズに交渉を進めるためには、日頃の準備と丁寧な対応が大切です。ここでは、立ち退きトラブルを避けるための実践的なポイントを紹介します。
あらかじめできることとして、契約更新のない「定期建物賃貸借契約(定期借家契約)」を締結しておけば、契約期間満了をもって契約を終了できるため、法律上、立ち退きの交渉が格段に進めやすくなります。建て替えを検討している際に空室が出たタイミングで、定期借家契約への切り替えを検討するのも一つの方法です。
【参考記事】定期借家契約のメリット・デメリット!貸主が知っておくべきトラブル回避の方法も解説
物件の建て替えでは、早めにスケジュールを立てて動くことが重要です。目安として、空室率が5割を超えたら新規募集を控える、または定期借家契約に切り替えるようにし、空室率が8割前後になった段階で本格的に建て替えの準備を始めると、立ち退き交渉がしやすくなります。
普段から建物や設備に対して適切なメンテナンスを行い、入居者の声に耳を傾けて対応しておくことで、信頼関係を築くことができます。日頃のこうした積み重ねが、交渉時のトラブル回避につながることもあります。
立ち退きを申し入れる際は、口頭だけで済ませると「言った・言わない」のトラブルに発展しかねません。基本的には書面でやり取りを行い、立ち退きを求める理由や立ち退き料などの条件を明確に伝えることが大切です。
入居者の引越しに伴う負担を軽減するために、立ち退き料を提示したり、転居先の物件を紹介したりするなど、配慮ある対応を行うことが交渉を円滑に進めるポイントとなります。転居先については、エイブルのような不動産会社がサポートできる場合があります。
入居者に「引越してもいいかな」と思ってもらえるよう対応していくことが、スムーズな合意形成につながります。
高橋弁護士:
「定期借家契約」のように、契約終了の時期が明確な契約形態を選ぶことで、将来的なトラブルを大きく減らすことができます。よくあるご相談に「普通借家から定期借家に切り替えることは可能ですか?」というものがありますが、条件を満たせば切り替えは可能です。
注意点として、住居用物件で2000年(平成12年)3月1日以前に締結された契約は、定期借家への切り替えが無効とされています。一方、それ以降の契約であれば、入居者の同意を得て、定期借家契約の趣旨や再契約がないことをきちんと説明し、書面で締結することで切り替えが可能です。こうした契約形態の変更については、トラブルを避けるためにも管理会社や弁護士などの専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
立ち退き交渉は、必ずしもスムーズに進むとは限りません。入居者の事情や反応によって、思わぬトラブルに発展することもあります。ここでは、よくあるトラブルとその対処法をご紹介します。
トラブルが発生した際は、まずは管理会社に状況を共有しましょう。立ち退き交渉そのものは法的交渉にあたり、弁護士以外の第三者が代理することはできません。管理会社の助言を受けつつ、オーナー自身が対応するか、早めに弁護士に相談するのが適切です。弁護士が身近にいない場合、弁護士会の法律相談会や区や市が実施する法律相談会などを活用しましょう。
高橋弁護士:
入居者との交渉が感情的になったり、こじれてしまったりすると、解決までに時間も労力もかかってしまいます。話し合いでまとまらないと判断した時点で、弁護士に相談することをおすすめします。トラブルを未然に防ぎ、スムーズに交渉を進めるためにも、専門家の力を借りるのは有効な選択肢です。
高額な立ち退き料を請求された際は、まず内訳の説明を求めることが重要です。たとえば、築40年・家賃3万円の物件で立ち退き料100万円を求められた場合、適切ではないと判断できる可能性があります。
立ち退き料には相場があるわけではなく、下記のような項目をもとに金額を検討します。
・引越し費用
・一定期間分の差額家賃 など
正当事由(建て替えの必要性など)や具体的な費用負担の内容を丁寧に伝えることが、合意への第一歩です。
高橋弁護士:
立ち退き料には明確な相場がなく、金額はケースバイケースです。請求された金額が高額に感じられる場合は、まずは費用の内訳を確認しましょう。また、入居者が借家権(※1)を主張する場合、金額が大きくなることがあります。その場合は弁護士に相談しましょう。
※1 借家権:賃貸借契約によって得られる借主の権利。経済的価値のある財産権の一つとして考えられます
話し合いで交渉がまとまらない場合は、裁判所に「明け渡し請求訴訟」を提起することになります。訴訟では、立ち退きの正当事由や立ち退き料の妥当性などが審理されます。裁判で入居者に立ち退きが命じられたにもかかわらず入居者が退去しない場合は、強制執行の手続きを取ることになりますが、精神的・経済的な負担も大きくなります。できる限り、初期の交渉段階で合意を目指すことが望ましいでしょう。
高橋弁護士:
建物の老朽化を理由に交渉を進める際、正当事由として認められるのは耐震性能が著しく低い場合や建物が大きく損傷していて、住み続けることに危険が生じる場合などです。リフォーム会社に所属する建築士など専門家から意見をもらい、建て替えの緊急性や必要性の根拠を説明できるようにしておきましょう。
高齢の入居者の場合など、「引越し先が見つからない」「保証人がいない」といった理由で立ち退きを拒まれることもあります。こうしたケースでは、経済的・心理的な支援を行うことが重要です。
入居者に身寄りがある場合は、まずご家族に相談しましょう。身寄りがない場合やご家族の協力が得られない場合は、行政に相談します。
・引越し費用や立ち退き料の提示
・転居先の紹介や不動産会社との連携(転居先のあっせん)
・市区町村の「居住支援制度」や公営住宅のあっせん
上記のように住み替えをサポートする環境を整えることで、合意形成が進みやすくなります。
高橋弁護士:
たとえば高齢の入居者の場合、建物明け渡しの判決が出ていてもすぐに強制執行とはいきません。新たな住居の確保が前提になるため、行政の福祉窓口に相談し、公的支援を受けながら住み替えを支援する必要があります。高齢化が進む中、こうした福祉的視点を持った対応がますます重要になっています。
電話や訪問を行っても入居者と連絡が取れない場合は、住民票を取得して現住所を確認する方法があります。それでも連絡が取れない場合や、すでに物件に住んでいない可能性が高い場合には、裁判所を介した手続きを検討します。入居者と連絡が取れない場合は、裁判所で手続きをする前に弁護士に相談しましょう。
アパートやマンションの建て替えを進めるうえで、入居者との立ち退き交渉は避けて通れません。トラブルを防ぐためには、計画的に準備を進めるとともに、入居者の立場に立った丁寧な対応が欠かせません。適切な立ち退き料を提示し、住み替えのサポートや情報提供を行うことで、合意形成がしやすくなるケースも数多くあります。
立ち退き料については、こちらの記事で解説しています。
【関連記事】賃貸物件の立ち退きの流れ、立ち退き料の考え方を弁護士が解説
交渉が難航したり、入居者との間でトラブルが発生したりした場合は、無理に進める前に一度弁護士にご相談ください。状況に応じたアドバイスを受けることで、冷静かつ適切な対応が見えてきます。
エイブルでは、建て替えやリフォーム、土地活用など、賃貸経営に関するご相談を幅広くお受けしています。「そろそろ建て替えを考えるべきかも」とお悩みのオーナー様は、ぜひ一度ご相談ください。