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賃貸経営をしているとさまざまなトラブルに直面しますが、中でも厄介なのが「水漏れ」です。水漏れは放置すると被害が拡大し、入居者や建物全体に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、水漏れの原因を解決しないままでいると、入居者の生活に支障をきたし、最悪の場合、退去につながることも。
この記事では、賃貸住宅で水漏れが発生した際に、大家さんが負う修繕義務や責任範囲、対処法について、弁護士がわかりやすく解説します。
監修=芝大門法律事務所 高橋 真司弁護士
慶応義塾大学卒業後、99年に弁護士登録・芝大門法律事務所へ入所。不動産紛争、近隣問題、債権回収、相続など多くの大家さんが悩むテーマを中心に取り扱う「不動産問題のプロ」。著書に「賃貸住宅の法律Q&A」(大成出版社・共著)ほか。 |
目次
民法第606条1項で「賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う」と定められています。大家さんは、入居者が安心して物件を利用できるように維持・修繕する責任を負っているということです。
ただし、すべてのケースで修繕義務が生じるわけではありません。たとえば、次のようなケースでは修繕義務が免除されることがあります。
物理的に修繕が不可能な場合
建物の老朽化が進んでいたり、修理のためのパーツがなかったり、工事を行っても直すことができない場合は修繕義務が発生しません。この判断は、まず水道修理事業者など専門家の調査をもとに行います。
過大な修繕費用がかかる場合
修繕にかかる費用が社会通念上不可能と考えられるほど高額であれば、修繕義務は免除されます。
水漏れは水道修理業者の手によって修繕できるケースがほとんどですが、築年数が経過している建物では修繕が困難になる場合もあります。
また、災害や事故などが原因で「修繕が物理的、経済的に不可能」と判断されるケースでは、入居者が居住を続けることが難しくなります。その場合、最終的に賃貸借契約を終了することも選択肢の一つとなります。
「水漏れ」と一口にいっても、その原因はさまざまです。ここでは、修繕費用や賠償責任を誰が負うかを解説していきます。主な原因は以下の4つです。
・賃貸物件の設備不良や老朽化(経年劣化)
・入居者の過失
・自然災害などの不可抗力
・原因が特定できない
それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
賃貸物件の老朽化(経年劣化)や設備の不具合が原因で水漏れが発生した場合、修繕費用や賠償責任は大家さんにあります。また、壊れた箇所を放置したり、配管の劣化など予測できる問題に対処していなかったりした場合も、大家さんの責任とみなされます。
大家さんの責任となる水漏れには、下記のような原因があげられます。
・給水管や排水管の劣化による亀裂や緩み
・排水竪管のゴミの詰まり
・外壁のヒビ(クラック)屋上の防水加工の劣化
・屋根の破損による雨漏り
・浴室扉のパッキンの劣化
・エアコンのドレンホースの詰まり など
これらのケースでは、水濡れによって入居者の家具や家電、生活用品に被害が出た場合、その補償も大家さんが負担する必要があります。
また、寒冷地では水道管の凍結による水漏れもよく発生します。この場合、原因によって負担者が異なります。たとえば、入居者が水抜きを怠ったことで発生した凍結は入居者負担となりますが、配管の老朽化が原因で凍結した場合は大家さんの負担です。
【関連記事】アパートの水道管凍結は基本的に入居者責任!大家さんができる対応とは
水漏れが大家さんの責任により発生し、入居者が部屋を退去せざるを得ない状況に陥った場合、引っ越しに伴う損害賠償費用を負担する可能性もあります。このようなリスクを避けるためにも、定期的な設備点検を行い、早めの対応を心がけましょう。
入居者の不注意や使い方が原因で水漏れが発生した場合、入居者の過失と判断されるケースが多く、修繕費用や賠償責任は入居者が負担することになります。具体的には、次のような例が挙げられます。
・蛇口の閉め忘れによる水の出しっぱなし
・排水溝の掃除を怠り、洗面台や浴室から水が溢れた
・お風呂や洗面台に水を溜めすぎて溢れさせた
・洗濯機のホースが外れた状態で洗濯を行った
・トイレに流してはいけないものを誤って流した など
これらの場合、入居者は部屋や建物の修繕費を負担するだけでなく、下の階への浸水被害が発生した場合の賠償責任も負うことになります。
台風や豪雨、大雪などの自然災害が原因で水漏れが発生した場合、修繕義務は大家さんにあります。ただし、修繕が必要になったことや、入居者が住めなくなったことに対して、大家さんが損害賠償義務を負うことはありません。
しかし、修繕を怠った場合は状況が変わります。たとえば、水漏れを放置した結果、入居者が住めなくなり引っ越しを余儀なくされた場合、大家さんが損害賠償義務を負う可能性があります。
また、災害による大規模な損傷で修繕が物理的、経済的に不可能と判断された場合、賃貸借契約は「履行不能」として終了し、入居者に退去してもらうケースもあります。
【参考記事】今からできる台風対策。修繕費用の負担や火災保険の補償内容についても解説
水漏れトラブルの原因が明確な場合、比較的スムーズに対処できます。しかし、水漏れは原因となる箇所がすぐに見つからないことや、原因が複雑で対応が難しくなることも多々あります。たとえば、入居者の使用方法に問題があったケースや、老朽化した設備が絡む場合などです。
水漏れの原因がわからなくても、大家さんには「賃貸物件を問題なく使用できる状態に維持する義務」があるため、修繕が必要です(物理的、経済的に修繕が不可能な場合を除く)。
水漏れを放置すると損害が拡大し、結果的に大家さんの責任や負担が大きくなる可能性があります。そのため、原因が特定できていなくても、修繕可能な箇所は早めに対応することが重要です。また、調査の結果、入居者の過失が原因と判明した場合には、修繕費用を入居者に請求することができます。
大家さんには、トラブル発生時に原因を調査し、問題を解決する責任があります。原因の調査は、水道修理業者などの専門家に依頼しましょう。また、水漏れは放置するほど被害が拡大します。事前に管理会社や24時間対応の水道修理業者と連携し、迅速に対応できる体制を整えておきましょう。
水漏れトラブルの連絡は、必ずしも原因となる部屋の入居者からとは限りません。たとえば、下の階の入居者から「天井から水が漏れている」といった連絡があり、原因箇所を特定するために上の階を調査する必要が生じることがあります。
ただし、調査のためであっても、入居者の同意を得ずに部屋に立ち入るのはNGです。無断で入室すると、住居侵入罪の嫌疑を受けたり、プライバシーの侵害とみなされたりする可能性があります。損害賠償請求に発展する恐れがあるため、調査を行う際は必ず入居者と連絡を取り、同意を得た上で入室するよう徹底しましょう。
また、調査時には、管理会社や水道修理業者、場合によっては警察や消防といった第三者の立ち会いを依頼すると、トラブルの予防につながります。
さらに、賃貸契約書に「緊急時には立ち入りが必要な場合があること」や「入居者が調査に協力する義務がある旨」を特約として記載し、契約時に説明しておくことも重要です。
万が一に備えて、水漏れトラブルの基本的な対応の流れを把握しておきましょう。主な対応の流れは以下の通りです。
・入居者や管理会社から連絡を受ける
・現場の状況を確認する
・修理業者を手配する
・保険会社へ連絡する
入居者から水漏れの連絡を受けたら、迅速に対応を開始することが重要です。特に緊急性が高いトラブルでは、迅速な行動が被害拡大を防ぐカギとなります。
管理会社に物件の管理を委託している場合、水漏れの報告は管理会社から届きます。また、工事の依頼や日程調整、立ち会いなどは管理会社に委託できます。
※下記は、自主管理している大家さんの対応方法です
水漏れの連絡を受けたら、できるだけ早急に現場に赴き、状況を確認することが大切です。原因の特定に向けた準備を進めましょう。
水が漏れている箇所や設備の状態を撮影し、被害の規模や場所を視覚的に記録します。漏水の広がり具合や設備の亀裂、傷みが見られる場合も、細かく撮影し記録しておくことが大切です。
入居者の家具やカーペットが濡れたり汚損したりした場合、その状態を撮影します。同時に、状況をメモに記録しましょう。たとえば、「どんな家具がどの程度濡れているか」「被害が発生した日時」などを詳細に書き留めておくと、後の対応に役立ちます。
原因の特定が難しい場合は、管理会社や設備工事、水道修理業者に相談し、プロに調査を依頼することをおすすめします。
水漏れの原因を確認したら、速やかに専門の水道業者や設備工事会社に連絡し、修理を依頼しましょう。
水漏れトラブルの原因が大家さんにある場合、保険会社に連絡します。水漏れは、一般的に火災保険で対応されますが、通常の火災保険ではカバーされないケースもあります。「水漏れ補償」などの特約が付帯されているかどうか、契約内容を確認しておきましょう。
【参考記事】賃貸オーナー向け火災保険の補償範囲とは
入居者の故意や過失による水漏れの場合、入居者が加入している個人賠償責任保険が適用されることがあります。この場合、入居者に保険会社へ速やかに連絡するよう促しましょう。
ただし、入居者が保険に未加入の場合、修理費用は個人負担となります。修繕費用の負担は大きくなりがちなので、賃貸契約時に「借家人賠償責任保険」などへの加入を必須条件とすることをおすすめします。
【参考記事】借家人賠償責任保険で賃貸経営のリスクに備える
賃貸物件を管理する上で、水漏れはいつ発生してもおかしくないトラブルのひとつです。入居者対応や修理手配、原因調査など、大家さんが全てを対処するには多くの時間と労力がかかります。
信頼できる管理会社に物件管理を委託することで、水漏れトラブルの対応をプロに一任できます。また、賃貸経営のストレスを軽減し、トラブル解決のスピードも向上します。物件管理の方法として、管理会社への委託を検討してみてはいかがでしょうか。