
借家人賠償責任保険で賃貸経営のリスクに備える
賃貸物件に賃借人が入居するときは、火災保険に加入してもらうの […]
賃貸物件のオーナーになる際、火災保険への加入を検討する方は多いでしょう。「火災保険」という名前から、火災時の損害のみを補償する保険だと考えがちですが、実は火災以外のさまざまなトラブルにも対応できる保険です。
今回は、エイブルで損害保険の商品開発やオーナー対応を担当する秋山マネジャーが、オーナー向け火災保険の必要性や補償範囲について詳しく解説します。
監修:秋山宏子 エイブル 関連事業部 マネジャー 証券会社で営業に携わった後、エイブルに入社。損害保険を主に担当し、入居者やオーナーに向けた保険商品の企画・開発に携わっている。業界歴は20年以上。 資格:損害保険募集人 |
目次
賃貸借契約では、入居者が火災保険に加入することが一般的な条件となっています。しかし、「入居者が保険に入っているのに、オーナーにも必要なの?」と疑問に思う方もいるでしょう。火災保険への加入はオーナーの義務ではありませんが、加入しておくことには重要な理由があります。それは建物のトラブルに備えるためです。
秋山マネジャー:
入居者の火災保険で対応できる範囲には限界があります。入居者は「借家人賠償責任特約」が付いた保険に入っていることが一般的ですが、それだけではカバーできないこともあるのです。
ほかにも、入居者が保険の更新を忘れていた、無効になっていた際に事故が起きた場合、補償されなくなってしまいます。
また、原因が特定できない事故では、オーナー様が費用を負担することも。たとえば、集合住宅で建物の給排水管が詰まり、どの部屋が原因かわからないケースがその典型です。
火災や台風などの自然災害で建物が損傷した場合、修理費用は建物を所有するオーナー自身が負担することになります。入居者に過失がない場合や原因が不明な場合、修理費用や入居者への賠償額が高額になるリスクも考えられます。
オーナーが火災保険に加入しておくことで、災害や事故が起こったときに迅速に対応できるようになります。結果として、物件の価値を守り、入居者にも安心して暮らしてもらうことにつながるでしょう。オーナー自身の安全と安定した賃貸経営のためにも、火災保険の重要性を再確認し、プランを検討していくことが重要です。
秋山マネジャー:
オーナー様からのご相談では、水漏れや老朽化が原因のトラブルが多く挙げられます。保険は万一の際に、オーナー様をしっかり守る頼もしい備えです。実際に私が携わってきた事例から、その重要性をお伝えします。
給排水管の破損:老朽化した配管が破裂し、入居者の部屋や建物全体に影響するケース
経年劣化による事故:古い設備の不具合が原因で突発的な事故が発生した場合
老朽化が原因の損害は基本的に保険適用外ですが、第三者への賠償が必要な場合は特約による補償が適用されることがあります。
ケース1:新築の内装が損傷した水漏れ事故
状況:新築物件で排水管が詰まり、トイレの逆流が発生。高級素材を使った床や壁に汚水が浸透し、全面的な張り替えが必要となった。
原因:排水管の本管の詰まりが原因で、入居者側の責任は不明。修繕費用の全額がオーナー負担となる。
補償内容:被害総額は700万円以上にのぼり、火災保険で約500万円が支払われ、修繕費用の大部分をカバーした。
ケース2:集合住宅での給排水管破損による水漏れ
状況:築20年以上の集合住宅で、老朽化した配管が破損。水漏れが共用部分から複数の部屋に広がり、入居者にも影響が及んだ。
被害の特徴:床材や壁材が損傷し、一部の入居者は一時的な退去を余儀なくされた。
補償内容:火災保険で約600万円が支払われ、建物の修繕費用や入居者の仮住まい費用を補償できた(配管の修理費用は除く)。
ケース3:冬季の凍結による給湯器破損
状況:冬の寒さで給湯器が凍結し、内部破損から漏水が発生。新築の集合住宅でも、入居者の部屋の内装や家財にまで被害が広がった。
被害の特徴:凍結による設備トラブルは築浅物件でも起こり得るリスクであり、今回もその例の一つ。
補償内容:火災保険により約100万円が支払われ、給湯器の交換費用や内装の修繕費が補償できた。
火災保険の補償対象は大きく分けて「建物」と「家財」の2つに分類されます。それぞれ具体的にどのようなものが含まれるのか、詳しく見ていきましょう。
オーナーが加入する火災保険では、以下のような「建物」に関する損害が補償されます。
建物本体:アパートやマンションの外壁、屋根、内壁など、建物全般 内装や設備:床材、壁紙、トイレ、キッチン、洗面所など 付属設備:オーナー提供のエアコン、給湯器、浴槽などの固定設備 建物周辺の施設:門扉、塀、車庫、物置、庭木など(条件付きの場合もあり) |
これらの補償は、火災や風災、水災(床上・床下浸水など)などの自然災害による被害を対象としています。
入居者が加入する火災保険では、主に以下のような「家財」が補償対象となります。
家具類:ソファ、ベッド、ダイニングテーブルなど 家電製品:冷蔵庫、洗濯機、テレビ、パソコンなど その他の生活用品:衣類、靴、調理器具、本、楽器など |
ただし、現金や有価証券、自動車、動植物などは一般的に補償対象外となるため注意が必要です。
秋山マネジャー:
火災保険の補償範囲は、契約内容によって変わるため、契約時にしっかり確認しておくことが大切です。特に第三者に対する補償がないと、後々トラブルになることもあるので注意しましょう。
火災保険は、損害が発生した場合に修繕費用を保険金額の範囲内で補償します。保険金額の範囲内での補償は設定された上限額まで補償されるものの、一部自己負担が必要な場合もあります。
火災保険の補償内容は、大きく「自然災害による被害」と「偶発的な事故による被害」の2つに分けられます。それぞれの具体的な内容と注意点を見ていきましょう。
自然災害が原因となる被害は、火災保険の基本的な補償対象です。具体的には以下のような災害が含まれます。
火災:建物や設備が火災で損傷した場合 風災:台風や強風による屋根や外壁の損傷、飛来物による被害 水災:ゲリラ豪雨や台風による床上・床下浸水、土砂崩れなど 落雷:雷の直撃や、それによる電化製品の損傷 雪災:積雪や雪崩による建物の破損や損傷 |
【関連記事】【賃貸オーナー向け】今からできる台風対策。修繕費用の負担や火災保険の補償内容についても解説
自然災害以外にも、予期せぬ事故や人的ミスによる損害が補償される場合があります。このカテゴリは「破損・汚損」に該当します。
偶発的な破損:家具や設備の破損、物の衝突による損傷 汚損:排水管の詰まりや水漏れに伴う内装や家財の汚損 人的ミスによる損害:例)入居者が洗濯機のホースを外したまま放置し水漏れを引き起こしたケース |
物件の立地や状況によっては、水災補償を外す選択肢も考えられます。ただし、リスクを完全にゼロにすることは難しいため、慎重な判断が必要です。
・高層マンションの高層階:分譲マンションの5階以上の部屋では、水災リスクが低いことが多い
・高台や水害リスクが少ない地域:ハザードマップでリスクが低いことが確認できる場合
秋山マネジャー:
物件の立地や状況によっては、水災補償を外す判断をすることもあります。ただ、最近は気候変動の影響で、予想外の豪雨や土砂災害が増えているのも事実です。リスクがゼロとは言い切れないので、最新のハザードマップや物件の状況をしっかり確認し、総合的に判断することが大切です。
【関連記事】火災保険の活用方法と本当に必要な特約の見極め方
火災保険はさまざまな災害や事故を補償しますが、補償対象外となるケースもあります。特に以下のような事例は注意が必要です。
火災保険では、これらの自然災害による損害は補償対象外となります。たとえば、地震が原因で発生した火災や建物の倒壊は保険適用外です。これらのリスクに備えるには、火災保険とセットで地震保険への加入が必要です。
建物の老朽化に起因することが大半であるため、対象外となるケースが多くみられます。ただし、原因が台風などで屋根が破損した結果、雨漏りした場合であれば、火災保険の対象となる可能性もありますが、多くの雨漏りの事故は建物の老朽化に起因することが多いため、ほぼ対象外になることが多いです。
秋山マネジャー:
雨漏りは火災保険の対象外になることが多いので注意が必要です。なぜかというと、雨漏りの原因はたいてい建物の老朽化や施工不良とされるため、「偶発的な事故」ではなく、「メンテナンス不足」と判断されてしまうからです。雨漏りを防ぐためには、日頃から建物の点検や管理をしっかり行っておきましょう。
また、定期的にメンテナンスの履歴を残しておくと、所有者として必要最低限の対応をしている、という証明になります。
エイブルでは「建物無料診断」を実施しています。建物の現状画像とともに、劣化が進行している箇所や修繕方法などを細かくまとめたレポートの送付が可能です。建物の現状を把握したいという方は、お気軽にご相談ください。
火災保険だけではカバーしきれないリスクに備えるため、火災保険に加入する際は以下の特約を追加することも有効です。
所有している建物が原因で、第三者(入居者や隣人)に損害を与えた場合の賠償責任を補償します。万が一、事故が訴訟問題に発展した場合にも対応できるため、安心です。
入居者が室内で不慮の事故により亡くなり、発見が遅れてしまった場合の特殊清掃費用や家賃の損失、周辺への影響費用をカバーします。「孤独死保険」や「家主費用特約」と呼ばれることもあります。
火災や水漏れで建物が居住不可能になり、家賃収入が途絶えた場合のリスクを補償します。たとえば、火災で修繕が必要となり、2か月間家賃収入が得られなくなった際も補償されます。
秋山マネジャー:
火災保険の基本補償だけでは対応しきれないリスクがあるため、特約の追加や補償内容の定期的な見直しがとても重要です。特に「施設所有者賠償特約」は、第三者に損害を与えた際に補償してくれる大切な特約です。これがないと、入居者が避難先で使ったホテル代など、思わぬ費用がオーナー様の自己負担になることもあります。
こうしたリスクにしっかり備えておくことで、安心して物件を管理することができます。
火災保険の補償期間や保険料は、近年大きな変化を迎えています。2022年以降の契約ルール変更や、保険料の引き上げについて解説します。
2022年以降、火災保険の補償期間は最長10年から最長5年に短縮されました。背景には、自然災害の増加や将来予測の不確実性が挙げられます。これにより、契約の更新頻度が増え、以前のように長期間の保険料を一括で支払い、安心を確保することが難しくなりました。一方で、最長5年への短縮により、契約内容を見直す機会が増えたという側面もあります。以前の長期契約には次のようなメリットとデメリットがありました。
・過去の契約では当時の保険料が適用されるため、現在より費用面で有利
・契約更新の手間が少ない
・長期契約では最大約10.64%の割引が適用される
・補償内容を見直さないまま契約を維持しているケースが多く、必要な特約が不足していることがある
・長期間の契約内容を忘れてしまい、実際のリスクと補償が合わない場合がある
秋山マネジャー:
過去に契約した長期保険は費用面でのメリットが大きい一方で、補償内容が今のリスクに合っていないこともあります。契約内容の確認はつい後回しにしがちですが、保険会社から届く年次通知や、自治体のハザードマップを活用して、定期的に見直すことをおすすめします。今のリスクに合った補償内容をしっかり選ぶことで、安心につながります。
2024年10月、火災保険料の参考純率が全国平均で13%引き上げられました。背景には、次のような要因があります。
大型台風や集中豪雨が頻発し、これまで被害が少なかった地域でも浸水被害が相次いでいます。その結果、保険会社の支払う保険金が増加し、保険料の引き上げにつながりました。
水災補償の保険料率(水災等地)が5段階に細分化され、地域ごとにリスクに応じた保険料が適用されるようになりました。リスクが高い地域では保険料が上昇し、逆にリスクが低い地域では割安になるケースもあります。
参考サイト:水災等地検索|損害保険料率算出機構
秋山マネジャー:
最近の保険料の引き上げに驚かれる大家さんも多いですが、自然災害の増加を考えると避けられない流れです。大切なのは、物件が所在する地域のリスクをしっかり把握し、今の状況に合った保険を選ぶことです。エイブルではリスク評価や保険選びのご相談も承っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。
火災や事故が発生した場合、被害が入居者の部屋だけにとどまらず、建物全体や周辺の建物にまで拡大することがあります。入居者の保険だけでは建物自体の損害をカバーできないため、オーナー向けの火災保険はリスクに備える重要な手段です。
長期間、契約を更新せずにいると、補償内容が古いままになっているケースがあります。特に「施設所有者賠償責任特約」が付いていないと、事故の際に第三者への賠償が自己負担となるリスクがあるため注意が必要です。
自然災害の増加に伴い、火災保険料は上昇傾向にあります。保険料が今後下がる見込みは少ないため、現時点で必要な補償内容を確認し、適切な契約に見直しておくことが求められます。
秋山マネジャー:
火災保険は、何かあったときの安心を買うものです。保険を使う事態がないに越したことはありませんが、万が一の時に後悔しないためにも、必要最低限の補償はしっかり備えておくことが大切です。
・火災保険
・台風などの風災対応保険
・賠償保険の特約(例:施設所有者賠償責任特約)
保険会社から送られる年次通知や、自治体のハザードマップを活用し、現状のリスクに合った補償内容になっているかを定期的に見直すことが重要です。
5年契約の年払いを活用すれば、保険料を抑えながら効率的にリスクに備えられます。
秋山マネジャー:
自然災害や原因不明の人為的な事故で建物に損害が発生した場合、オーナー様が修繕費用を負担することになります。修繕費が膨らめば、不動産経営やローン返済にも影響が出かねません。安心して賃貸経営を続けるためにも、火災保険の見直しや加入を検討していただければと思います。
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