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共有名義で不動産(賃貸物件)を相続するメリット・デメリットとトラブル回避策を弁護士が解説

相続・節税
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#トラブルを解決したい
共有名義で不動産(賃貸物件)を相続するメリット・デメリットとトラブル回避策を弁護士が解説

相続財産に不動産が含まれる場合、複数の相続人と共有して相続することがあります。1つの不動産を複数人で共同所有する「共有名義での相続」にはメリット・デメリットの双方があるため、相続方法を検討している場合はそれぞれの特徴を把握しておくことが重要です。

今回は、弁護士監修のもと、共有名義での相続に関するメリット・デメリットに加え、起こりがちなトラブルや回避方法まで解説していきます。賃貸物件の相続でお困りの方はぜひ参考にしてください。

※記事の内容は、2025年9月時点の法令・情報に基づいています

監修=芝大門法律事務所 高橋 真司弁護士

慶応義塾大学卒業後、99年に弁護士登録・芝大門法律事務所へ入所。不動産紛争、近隣問題、債権回収、相続など多くの大家さんが悩むテーマを中心に取り扱う「不動産問題のプロ」。著書に「賃貸住宅の法律Q&A」(大成出版社・共著)ほか。

URL:https://www.shibadaimon-law.com/staff/takahasi

不動産の共有名義とは

相続人が複数人いる場合、遺産は決められた割合で均等に分けることが一般的です。しかし、不動産は価値の均等な分割が難しく、預貯金のように金額で分けることができません。そのため、平等性を保つために共有名義で相続されることがあります。
これは、「アパートの1階部分を兄が、2階部分を弟が所有する」というように物理的に分けるのではなく、不動産の所有権を相続割合に応じて配分するイメージです。それぞれの所有者の所有権割合を「共有持分」といいます。

高橋弁護士
不動産を共有名義で相続すると、配偶者や子といった相続人が全員で1つの不動産を所有することになります。そのため、共有している不動産全体を売却したり、増改築や大規模なリフォームをしたりするには相続人全員の同意が必要となります。

共有名義で賃貸物件を相続するメリット・デメリット

共有名義での不動産相続はメリットがある一方、デメリットもあります。特にデメリットの面が目立つため、事前に確認しておきましょう。

共有名義で賃貸物件を相続するメリット

共有名義で不動産を相続するメリットには、以下の2つが挙げられます。

1.「相続人のうち1人が単独で取得する」という内容より、相続人が公平感を感じやすい
2.不動産にかかる経費を負担し合える

メリット1.「相続人のうち1人が単独で取得する」という内容より、相続人が公平感を感じやすい

不動産相続を共有名義にすると、1つの不動産を持分割合で所有できます。また、相続した不動産に収益が発生している場合、その収益を相続人で分けることで遺産分割の公平性が保てます。万が一遺産分割で揉めることがあれば、簡易的な解決策として共有名義が選ばれることもあるようです。

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相続人が公平さを感じて遺産分割協議がまとまったとしても、その後は不動産の共有者全員が同意しなければ建て替えや不動産全体の売却ができません。また、相続人が亡くなるとねずみ算式に共有者が増えていき、関係が複雑になります。その結果、後々さまざまなトラブルが発生しやすいため、問題を先送りにせず慎重に判断することが重要です。

メリット2.不動産にかかる経費を負担し合える

不動産にかかる経費を相続人全員で負担し合えるのもメリットのひとつです。不動産の維持には固定資産税や都市計画税、火災保険料や修繕費といった費用やさまざまな手間がかかりますが、相続人で分担することで1人にかかる負担が少なくなります。
ただし、納税通知書は代表者の1人にしか送付されないことが一般的です。代表者が立て替えた後、他の共有者からお金を回収できないトラブルが起こる可能性があります。税金を滞納し続けると、不動産が差し押さえられてしまうリスクもあるため注意が必要です。

共有名義で賃貸物件を相続するデメリット

一方、共有名義での不動産相続には以下のようなデメリットがあります。

1.意思決定が難しくなる
2.固定資産税の分割支払いが難しい
3.将来の相続が難しくなる

デメリット1.意思決定が難しくなる

不動産を複数人で所有している場合、「共有する不動産全体」を対象とする変更や処分については、共有者全員の合意が必要になります。一方、共有持分を売却するなど「共有持分を対象とする行為」は原則として各共有者が個人(単独)で行うことができます。

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法律上、共有物に対してどのようなアクションをするかによって同意が必要な共有者の数が決まります。具体的には、変更(処分)・管理・保存(行為)の3種類に分類されます。

変更(処分)とは、不動産の形状または効用を著しく変えることを指します。実施するには、共有者全員の合意が必要です。

変更(処分)の例:
大規模なリフォーム、「住居を事務所にする」「宅地を農地にする」など用途の変更、3年を超える建物賃貸など

管理とは、不動産を利用・改良する行為を指します。実施するには、共有者の過半数の合意が必要です。

管理の例:
防犯カメラの設置、一部の階層、外溝の整備など、不動産の使い勝手をよくするもの。3年以下の建物賃貸、壊れてはいない設備(給湯器やエアコンなどを)交換など

保存(行為)とは、現状を維持するための行為を指します。ほかの共有者の合意を得ずとも、各共有者が単独で実施できます。

保存(行為)の例:
壊れた箇所の修理、不動産を不法占有している者に対する明渡請求、無権利者の登記がなされている場合の抹消登記請求など

たとえば、1人が共有名義で相続した賃貸物件を「ペット可の賃貸物件やシェアハウスとして活用したい」と考えていても、他の相続人が反対すれば難しくなります。賃貸物件の管理には多くの費用や時間が必要であり、同意してもらえないことも少なくありません。

また、不動産全体を売却する場合も、相続人全員の署名と捺印が必要です。相続人の誰かが遠方に住んでいれば手続きに時間が取られてしまうため、売却までの期間が長引いてしまうおそれがあります。

さらに、共有者の1人が認知症などで意思能力を喪失した場合、不動産の売買契約や遺産分割協議といった法律行為を有効に行うことができなくなります。意思能力を欠く共有者がいると、成年後見人の選任が必要になり時間や手間がかかるほか、成年後見人が選任されてもほかの共有者が望む処分が認められないケースもあります。

デメリット2.固定資産税の分割支払いが難しい

固定資産税の支払いが難しいことも共有名義のデメリットのひとつです。固定資産税は建物そのものにかかるため、相続人で分割して支払わなければいけません。相続人の中に万が一固定資産税の支払いに非協力的な人がいれば、代表者が負担する必要があります。

デメリット3.共有持分の売却や将来の相続が難しくなる

各所有者は、自己の共有持分をほかの共有者の同意なしで自由に売却することが可能です。しかし、持分を購入しても不動産を自由に利活用や処分できるわけではないため、買い手を見つけることは困難です。また、買い手が見つかったとしても共有持分のみを売却する場合、不動産全体の市場価格を持分割合で按分した金額より大幅に低くなるケースが多いです。

共有名義で物件を相続する際に起こりがちなトラブル

相続 共有名義2
不動産を共有名義で相続した場合、以下のようなトラブルが起こる可能性があります。

・不動産の使い道が決まらず長期間放置されてしまう
・税金の負担が1人に偏る
・不動産の共有者が増えて収拾がつかなくなる
・誰かが共有持分を勝手に売却してしまう(知らない第三者と共有することに)
・所有者不明の不動産になり、社会的な悪影響が発生する

これらの悪循環が起こると、単に不利益が生じるだけでなく人間関係も悪化してしまいます。不動産が原因で大きな喧嘩に発展してしまう可能性もあるため、事前に何らかの対策を講じる必要があるといえるでしょう。

共有名義による相続トラブルを回避する方法

共有名義による相続トラブルを避けるためには、そもそも共有名義で不動産を相続しないことや、相続前に分割方法を見直すことが重要です。不動産を相続する場合、共有名義以外に2つの方法があります。

・代償分割
・換価分割

代償分割

相続財産に不動産が含まれる場合、最もトラブルになりにくいのは、不動産を1人が単独で相続すること。代償分割とは、複数いる相続人のうち1人が不動産を所有し、他の相続人に一定の代償金を支払うといった相続方法です。

たとえば、4人の相続人が平等に評価額1億円の賃貸物件を相続する場合、代償分割をすると不動産の相続人が他の相続人に2500万円ずつ支払います。このようにすることで、相続人全員が2500万円ずつの利益を得ることができます。代償分割では、不動産を受け継ぐ相続人に精算のための多額の現金(代償金)が必要になります。

高橋弁護士
不動産を所有している場合は、不動産だけでなく将来相続が発生するときの分割の材料としてある程度の現預金を確保しておくことをおすすめします。

換価分割

換価分割とは、相続した時点で不動産を売却し、現金化して分け合うといった相続方法です。こちらは、今後不動産を活用しないと全員で決めた場合に採用される方法です。

不動産の評価額で金額を決める代償分割よりも、実際に売却した金額を分割する換価分割の方が公平に分け合えます。ただし、「不動産に思い入れがあって売却したくない」という相続人がいる場合、この方法はおすすめできません。

不動産を受け継ぐ手段として、生前に家族や信託会社などに不動産の管理・運用を託す「信託」についてもかんたんに紹介します。

家族信託や不動産管理信託の活用

信託とは、「自分の財産を信頼する第三者に託し、自分や大切な人のために管理・運用してもらう制度」を指します。

家族信託と不動産管理信託は、不動産などの財産を託して管理・運用してもらう制度であり、家族に託すか、信託会社や信託銀行といった第三者に託すかの違いがあります。

信託なら「受託者(信頼できる家族や信託会社など)」が管理・運営権限を持ち、スムーズに不動産に対する意思決定を行うことができます。また、複数の物件や賃料収入を受託者がまとめて管理できるといったメリットもあります。

高橋弁護士
たとえば、父(被相続人)が所有する賃貸アパートを3人の子(相続人)に承継させたい場合、次のような信託契約が可能です。

・父と長男の間で信託契約を締結
・生前の収益:父が賃料収入を受け取れるよう設定
・父の死後の収益:相続割合に基づいて賃料収入を3人の子で分けるよう設定
※「不動産の管理を任せる分、長男に上乗せする」といった取り決めも可能

家族信託について詳しくはこちら
【関連記事】家族信託を活用した不動産相続って?メリット・デメリットやトラブル対策法を解説

不動産管理信託について詳しくはこちら
【関連記事】不動産管理信託の仕組みとメリット・デメリットを基礎から解説!相続対策での注意点も

家族信託と不動産管理信託を比較した記事はこちら
【関連記事】争続(あらそうぞく)を回避する!専門家と信託会社の活用法とは

トラブルを避けるためには「遺言書」の用意が重要

財産を誰に・どのように相続させるかを決めないまま亡くなってしまうと、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。遺産分割協議では、誰が・何の相続財産を・どれくらい相続するかを話し合いで決めることになり、仲のよい家族でも揉めてしまうケースが後を絶ちません。

残された家族に相続トラブルの種を残さないためにも、公正証書遺言などの法的に有効な遺言書を作成し、希望する内容を明記しておきましょう。特定の不動産を特定の相続人に単独で相続させる旨を記載しておけば、相続開始と同時に共有名義となることを防ぐことができます。その際は、ほかの相続人の遺留分にも配慮して内容を検討しましょう。遺言書があれば遺産分割協議は原則不要であり、相続人全員の合意がなければ遺言書と異なる分け方はできません。

高橋弁護士
特に、不動産をお持ちで子どもがいない方、子どもが2人以上いる方は遺言書を用意しておくことをおすすめします。子どもがいない家庭で相続が発生すると、配偶者と故人の親やきょうだいが法定相続人となり、遺産分割協議に長い時間を要するケースがあります。

相続人のトラブルを回避する備えをしておきましょう

不動産を複数人で所有する共有名義には、多くのデメリットも存在します。将来的に所有者間でトラブルが発生する可能性があるため、代償分割や換価分割、信託といった方法も検討しましょう。また、相続トラブルを回避するために、相続を見越して現預金を用意し、遺言書を準備して家族のために円満な遺産相続を目指しましょう。

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