
アパート建て替えのタイミングは3つの視点で判断!費用や流れも解説
アパートをお持ちの大家さんが、避けて通れないのが建て替えです […]
賃貸経営を続ける中で、アパートの老朽化は避けて通れない課題のひとつ。法定耐用年数との兼ね合いやローンの完済後に建て替えを行うケースが多かったことから「築30年」が建て替えの目安とされていました。しかし、実際の判断は難しいものです。
この記事では、毎年複数の賃貸物件の建て替えに携わるエイブルの大林部長が、建て替えのメリットから、建て替えを検討したほうがよいケース、建て替えにかかる費用の概要などついて、実例を交えてわかりやすく解説します。
監修:大林悟 エイブル 企画開発事業本部 部長 エイブルに入社後、店舗での店長職や賃貸管理、建て替えに関する業務を経験。約30年にわたる知見を活かし、現在はオーナー向けのコンサルティングを担当。賃貸経営における建て替え・土地活用のスペシャリストとして多くのオーナーからの相談を受けている。 資格:宅地建物取引士、土地活用プランナー、2級ファイナンシャル・プランニング技能士 |
目次
アパートが老朽化すると、家賃の下落や修繕費の増加、空室の増加などが重なり、収益性の低下を招く恐れがあります。そのまま放置すると、将来的な賃貸経営が難しくなる可能性も。まずは、建て替えのさまざまなメリットについて解説します。
駅近や人気エリアではないアパートは、一般的に築年数が経過するほど家賃が下がる傾向にあります。古いアパートは入居者が集まりにくく、入居者を増やすために家賃を下げるオーナーが一定数いるからです。
適切なリフォームやリノベーションを行うことで入居者を増やしたり、家賃を上げたりできるケースもありますが、費用対効果が検討されていない大規模リフォームや家賃の値下げは収益性の低下を招く可能性があります。
建て替えを行うことで、時代のニーズにマッチした物件を所有できます。新築物件として適正な家賃設定が可能になり、収益の向上が期待できます。また、時代や入居者のニーズに合った間取りや設備を取り入れれば、より高い家賃設定ができる可能性もあるでしょう。
建て替えによって入居者のニーズを満たす物件をつくり、高い稼働率で長く住んでもらうことができれば、長期的な収益の安定につながります。
さらに、外壁や屋根に耐久性の高い素材を採用することで、将来的な修繕コストを抑えられる点も大きなメリットです。ただし、適正な家賃設定を行わなければ、建築費の回収が難しくなり、収支バランスが崩れるリスクがあるため、慎重な計画が求められます。
大林部長:
建て替えを検討する段階で、地域の家賃相場や入居者のニーズ、退去や建築にかかるコストに詳しい専門家に相談し、「建築費をどれくらいの期間で回収するか」「適正な家賃はいくらか」を慎重に検討することが重要です。
建築費が高すぎてローンの返済額が膨らみ、収支を合わせるために家賃を高く設定せざるを得ないという方もいらっしゃいます。そういった場合、将来的に家賃を下げざるを得なくなるでしょう。
自然災害が頻発する日本では命や財産を守るため、災害に対する安全性の高い住宅への需要が高まっています。
たとえば、旧耐震基準(1981年5月31日までの建築確認において適用されていた基準)のアパートは、震度5程度の地震までの耐震性を備えているとされています。しかし、それ以上の強い地震が発生した場合、倒壊のリスクが。
また、築年数が経過している物件は、経年劣化により構造が弱体化している可能性があるため、想定されている耐震性能を発揮できない可能性があります。
建て替えによって耐震性や耐火性を向上させ、安全性の高い建物にすることで、入居者の安心感が増し、賃貸市場での競争力向上にもつながります。
大林部長:
災害だけではなく、メンテナンス面のメリットもあります。90年代以前に建てられたアパートは、外壁や屋根の修繕に費用がかさむケースが多いのです。たとえば、外壁のコーキングが劣化し、雨漏りの原因になると大規模な修繕が必要になることも。
大規模修繕が必要なアパートを次世代に引き継ぐことに悩む大家さんも少なくありません。建て替えによる、将来のメンテナンスコストの削減は大きなメリットです。
アパートの減価償却費は耐用年数内で計上できるため、建築後しばらくは税務上のメリットがあります。しかし、建て替えが必要になる頃には、多くのアパートが耐用年数を超過し、減価償却費を計上できない状態になっていることが少なくありません。
減価償却が終了すると、経費として計上できる範囲が減少し、結果として税負担が増加します。建て替えを行えば、再び減価償却費を計上できるようになります。
大林部長:
老朽化したアパートの建て替えを検討する際、オーナー様が気にされるのは「リフォームと建て替えで、どこが分岐点になるのか」「建て替えるメリットは何か」です。その判断基準の一つが「減価償却の終了」です。
建物の耐用年数は構造によって異なり、住宅用の場合「木造は22年」、「軽量鉄骨は27年」、「鉄筋コンクリートは47年」と決まっています。減価償却が終わると、税務上のメリットがなくなり、経費計上できる部分が減るため、所得税の負担が増す可能性があります。この点も、建て替えを検討する際の重要なポイントになります。
アパートの相続税評価額は、入居率や空室の状態によって変動します。空室が多いと「賃貸として利用されている部分が少ない」と判断され、相続税評価額が高くなる傾向にあります。
また、新築のアパートは老朽化した物件に比べて管理の手間が少なく、募集家賃も高く設定しやすいため、次世代へスムーズに継承しやすいのもメリット。相続後の賃貸経営を安定させるためにも、長期的な視点で建て替えを検討することが重要です。
大林部長:
私は、オーナー様に「相続税対策のために建て替えましょう」ではなく、「減価償却が終わって税負担が増えている今、建て替えでバランスを取りましょう」と提案しています。
大事なのは、オーナー様やアパートを受け継ぐご家族など、みなさんが納得できるかたちを考えていくこと。建て替えによって入居率が上がれば、結果的に継承後の賃貸経営も安定しやすくなるでしょう。
リフォームか建て替えかを判断する際は、「この物件をあと何年運営するのか?」を明確にすることが重要です。
建て替えを考えるべきタイミングとして、以下のようなケースが挙げられます。
・築年数が経過し、リフォームを重ねて、修繕費が増え続けている
・減価償却が終わり、税負担が増えている
・オーナーが高齢で、相続を見据えた対策が必要
・次世代にどう継承すべきか迷っている
大林部長:
老朽化したアパートに高額なリフォーム費用をかけても、投資額を回収する前に新たな修繕が必要になる可能性があります。結果的に負担が増え、建て替えを選択した方が合理的なケースも少なくありません。
老朽化したアパートを所有するすべてのオーナーに「建て替えが最適」とは限りません。物件の立地や市場の需要、将来的な収益性を総合的に判断する必要があります。場合によっては、土地の売却や異なる用途への転用が、より安定した収益につながることもあります。
大林部長:
重要なのは 「エリアのニーズに合ったプランを選ぶこと」 です。流行りに流されず、その地域で長く求められる間取りを選ぶことが、賃貸経営の安定につながります。
「建て替えが最適ではないケース」 では、土地を売却して他の資産に組み替える、または信託などを活用して資産の運用方法を見直すといった選択肢も考えられます。状況に応じて、どの選択肢が最適かを見極めていきましょう。
アパートの建て替えには、「解体費用」「建設費用」「入居者の退去費用」の3つのコストが発生します。これらの費用は、建物の規模や構造、立地条件によって大きく異なるため、事前の見積もりや計画が重要です。各費用のポイントを順番に見ていきましょう。
建て替えを行う際、現在の入居者に退去をお願いする必要がある場合があります。その際に支払われるのが立ち退き料です。立ち退き料の金額は決まっておらず、オーナーと入居者との交渉によって決まりますが、一般的な相場として「移転にかかる実費(引越し費用)や差額家賃」を支払う可能性があります。
大林部長:
築年数が経過したアパートで修繕を繰り返しても、入居者が入れ替わるたびに高額なリフォーム費用を払っていると、結果的に負担が大きくなる可能性があります。リフォームと立ち退きのコスト比較を行い、どちらが最適かを見極めましょう。
立ち退き交渉については、こちらの記事をご覧ください。
【関連記事】アパート建て替えの立ち退き交渉は最低6ヶ月前から!立ち退き料の相場も解説
アパートを建て替える際、まずは古い建物を解体する必要があります。解体費用は、建物の構造・大きさ・立地条件によって大きく異なります。特に、敷地が狭い場合や手作業での解体が必要なケースでは、コストが高くなりがちです。
自治体によっては解体に関する補助金制度があるため、活用できるか事前に調べておくのも良いでしょう。
大林部長:
解体費用を考える際に特に注意が必要なのは、アスベスト(石綿)の有無です。古い建物、特に昭和や平成初期のRC造マンションなどでは、アスベストが含まれている可能性があります(※1)。もし見つかった場合、処理費用が大幅に増えることも。
※1:2006年9月からアスベストの製造や輸入、使用などが禁止されている。それ以前に着工した建築物はアスベストが使用されている可能性がある
アパートの建設費用は、建物の構造や立地条件によって大きく変わります。さらに、電気・ガス・上下水道・換気・エアコンなどの設備費、外構工事費用、登記や固定資産税といった諸費用も発生するため、総額でどのくらいかかるのかを把握しておくことが重要です。
大林部長:
建築費については、2025年4月現在はほぼ半年ごとに値上がりしているため、坪単価などでの目安を出すことは困難です。「今いくらで建てられるか」よりも、コスト変動のリスクを理解し、計画的に進めていきましょう。
アパートを建て替える際は、いくつかのステップを踏む必要があります。具体的には、プラン策定・立ち退き交渉・解体工事・新築工事・入居開始という流れで進められます。
まずは、建て替え後のプランを策定します。
・建物の構造(木造・鉄骨造・RC造など)
・間取りや設備仕様
・資金計画(ローン・自己資金)
・市場ニーズを踏まえた家賃設定
これらの要素を検討し、最適なプランを作り上げていきます。
建て替えを行うには、既存入居者の退去手続きが必要になります。入居者とのトラブルを避けるためにも、早めに計画的な交渉を進めていきましょう。
・立ち退き交渉(例:退去期限の設定、立ち退き料の提示)
・賃貸借契約の終了手続き
・入居者の引越しサポート
大林部長:
立ち退き交渉に難航する場合は、弁護士にご相談ください。また、入居者が代わりに住む物件の情報提供については、エイブルなどの不動産会社がサポートできます。
入居者の退去が完了したら、既存建物の解体に進みます。解体費用は建物の構造や立地条件によって大きく変わります。費用が変わる要因を把握し、トラブルのないように進めることが大切です。
・アスベストなどの有害物質の事前調査が必要
・自治体の補助金が活用できる場合もある
建築プランに沿って新築工事を実施します。
・基礎工事 → 躯体工事 → 内装工事の順で進行
・設備(電気・水道・ガスなど)の設置
・竣工後の建築検査
新築アパートの引き渡しが完了したら、入居者の募集と管理業務がスタートします。
・家賃設定と募集開始
・広告・内覧対応
・契約締結と鍵の引き渡し
建て替えは一つの大きな決断ですが、オーナーやアパートを受け継ぐ次世代にとって長期的な安定経営につながる選択肢のひとつです。 まずは信頼できる専門家に相談し、状況に合わせた最適なプランを検討することが重要です。
大林部長:
私は大家さんに 「戸建てか、集合住宅か」「ファミリー向けか、単身者向けか」「1LDK」 など、複数のプランを提示し、最適な選択ができるようにしています。それぞれのメリット・デメリットをしっかり説明し、オーナー様やアパートを継承されるご家族の方が納得できる最適なプランを一緒につくることを心掛けています。
アパートの建て替えを成功させるには、市場の動向を把握し、長期的な視点で計画を立てることが重要です。具体的には、以下の2つのポイントを意識することで、収益性の高い賃貸経営を実現できます。
建て替え計画を立てる際には、単に「最近の入居者ニーズは○○!」といった表面的な情報にとらわれないことが大切です。目先のトレンドではなく、エリアの特性や長期的な維持管理のしやすさを重視することが、安定した賃貸経営につながります。
大林部長:
たとえば、駅近であれば間取りによる成約のしやすさに大きな差はありませんが、駅から少し離れたエリアでは戦略が変わります。ファミリー層が多い地域の場合、戸建賃貸の方が向いていることも。
だからこそ、私は「市場に似たような物件を増やす」のではなく、その地域のニーズに合わせた間取りやタイプを提案しています。また、賃貸物件は建てた後の維持管理が重要。「最近のデザインを取り入れたからOK」ではなく、メンテナンス費用を抑えられる素材や経年劣化で味が出るようなデザインを選ぶことで、結果的に将来のコストの低減につながります。
建て替えを成功させるためには、エリアの特性や賃貸市場の動向を正しく理解し、将来的な賃貸ニーズを見据えた計画を立てることが不可欠です。そのためには、地域の市場動向や、入居者の動きやニーズを熟知したパートナーの支援が欠かせません。
適切な家賃設定や間取りの提案、さらには建て替え後の入居率を高める戦略まで、総合的にサポートできる専門家との連携により、安定した賃貸経営を実現できます。
大林部長:
エリアのニーズをしっかり調査したうえで、「この場所で本当に求められている物件なのか?」を慎重に見極めることが大切です。そのためには、地域ごとの市場動向をきめ細かく把握していなければなりません。建て替え後に「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、慎重に選択肢を検討し、ご提案しています。
アパートの建て替えは、多くの場合築30年が目安とされていました。現在はバブル期(1985年~1990年前後)に建てられた物件が建て替えの時期を迎えており、多くのオーナーが検討を始めています。
法定耐用年数との兼ね合いや建物の老朽化だけでなく、ローンの完済時期や次世代への継承といった要因も重なり、自然と建て替えのタイミングが訪れるケースが多いのです。
大林部長:
建て替えを検討する際、多くのオーナー様が「ローンを組むのが不安」「でも、このままでは老朽化が進む」と悩まれます。重要なのは、将来の賃貸需要を見極め、安定した収益が確保できるプランを立てることが重要。建て替え後のリスクを減らすためにも、ターゲット層を明確にし、適切な収益計画を立てることが大切です。
エイブルでは、リフォーム・建て替え・土地活用など、オーナー様の状況に応じた最適な選択肢をご提案。物件の状態やエリアのニーズを踏まえ、長期的に安定した賃貸経営をサポートします。「この先、アパート経営をどうするべきか?」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。